INTERVIEWLOCAL VENTURE LABLVL OBOG 22.04.15

「この地域だからこそ」の事業を考え続けた半年間でした。

  • 第5期生

社会福祉法人浪速松楓会 業務執行理事

鯉谷雅至さん

大阪府富田林市出身。同志社大学卒業後、三井不動産レジデンシャルに入社。新三郷、西東京エリアにおける再開発事業に従事したのち、Uターンして高齢者福祉事業を主軸とする家業の社会福祉法人に入社。高齢者が施設に閉じこもるのではなく地域に居場所、役割を見出せる事業を作ることを目指す。

高齢者の孤立と貧困問題に向き合うために、
ローカルベンチャーラボへの参加を決めました。

ローカルベンチャーラボに参加する前はどんな活動をしていましたか?

僕の実家は、大阪市生野区の林寺(はやしじ)で代々借家業を営んでいます。家業を継ぐことは決まっていたので、大学卒業後は大手不動産グループの住宅分譲会社に就職し、その後1年間の世界放浪を経て、家族が経営する不動産会社に入社しました。

林寺には戦後も焼け残った借家が多くあり、そうした物件も扱っていたのですが、2006年の祖父の代に内風呂もなく住みづらい長屋に独居老人が取り残される状況をどうにかしたいと、地域への恩返し・社会貢献事業として社会福祉法人浪速松楓会を立ち上げ、大阪市で初めての全室個室のユニットケアを推進する特別養護老人ホーム「寿幸苑」と、ショートステイ・診療所を開設しました。

僕は、この社会福祉法人浪速松楓会による高齢者向けの社会福祉事業の経営を担当しています。入社から数年、なんとか黒字化はできたのですが、将来に備えて現在も組織変革の真っただ中です。

介護事業に携わるようになって、入居者さんから「なんで私がこんな牢獄に入らなあかんねん!」と泣きながら訴えられたことがあるんですが、それがすごくショックで……。今思えばこのできごとが、僕の志の原点になっているのかもしれません。

「高齢者にとっての幸せとは何か」ということを研究するために、高齢者心理学や老年学を勉強したり、大阪大学の先生の研究室やゼミを訪問したり、事業を通じてどんな価値を提供すべきか、自分なりに探究しています。

林寺エリアは、高齢化率がおよそ40%と、生野区で最も高齢化が進んでいます。しかもそのうち40%以上が単身世帯、52%が相対的貧困状態と、単身高齢者の貧困と社会的孤立が問題になっているんです。そこで、施設内だけでなく地域に住む高齢者同士のつながりを作れればと、高齢者向けの交流イベントなどを企画してきましたが、それだけではとても課題を解決しきれないと感じるようになりました。

介護も医療も自己負担比率が上がっていく中で、「たとえ単身・貧困になったとしても暮らしていける地域をつくるためにはどうすべきか?」という問いに向き合うため、ローカルベンチャーラボへの参加を決めました。都市部における限界集落とも言えるこの地域だからこそ、他地域にも展開できるようなモデルづくりができるのではないかと考えています。

地域で開催してきた交流イベントの様子

ローカルベンチャーラボで印象に残っているのはどんなことですか?

「当事者に聞き、当事者と話し、当事者たちと考えることの大切さ」です。自身の事業プランを検討する際も、都市部における単身高齢者の孤独と貧困というテーマから課題を絞るために、まずは当事者である地域の単身高齢者の方を始め、地元の社会福祉協議会や婦人会、貧困家庭への支援をしている当団体職員など、多くの方にヒアリングを行いました。

そこで分かったことは、ヒアリングしても当事者は自分の困難を自覚していないということ。また、当事者に会うこと自体が個人情報の保護などの事情で非常に難しかったですね。

ヒアリングの結果、「最低限の食事が食べられない」という課題に絞ろうと決め、解決策としてまず構想したのが、地域の70代が中心となって運営するコミュニティ型コンビニです。

この打ち手が本当に有効なのか、また自社事業として持続可能なのかを検証するため、母校の教授や同様の活動を展開されている方、ラボの同期生など、さらにヒアリングを重ねました。

こうした動きをやってみて、いくつか気づいたことがあります。1つ目は、林寺では僕と同様の課題感をもって活動している人は少ないようなので、これは自分が取り組むべき課題だということがはっきりしました。

一方で、自分は高齢者を雇用して飲食店を経営するような形態だと気が進まないことにも気づきました。この地域でつくっていきたいのは、ビジネスライクな雇用・被雇用という関係性ではなく、共助のコミュニティなんだということを自覚できたと思います。

また食育事業に取り組むラボ修了生の方から、「今は自分一人の頭の中で事業構想を描いているかもしれないけれど、まずは地域で一緒にやってくれそうな人を見つけるのが優先」というアドバイスがあったのですが、地域の様々なステークホルダーに話を聞く中で、地域の婦人会から「何かするなら関わりたい」という前のめりな声をいただけたことも大きな収穫でした。

こういったヒアリングを経て、事業構想も高齢者向けのシェアキッチン運営という方向に変化していきました。

エリアブランディングを通じて、
地域との向き合い方がガラッと変わりました。

自分から積極的に行動することで、事業案を具体化させていったんですね。

ところがそうでもないんです。ラボ後半からスタートしたゼミでは、「事業プランを具体化させすぎている」とメンターの寺井元一さんからストップがかかりました。

寺井さんはエリアブランディングを専門にされているのですが、「まずはエリアの“声”を聞きなさい」というアドバイスをいただきました。ある日ゼミ生へ向けられた「それではその地域ならではの要素が見えない。どこの地域でもできるものになってしまっている」というフィードバックは、僕にとっても非常に思い当たる節があり、それ以来「この地域らしさ」について真剣に考えています。

ゼミではエリアブランディングについて学びを深めながら、自分のフィールドである林寺のリサーチに取り組んだのですが、「このまちにとって必要な機能は何なのか?」という視点やそれを見極める方法は、本業の不動産業にもつながるようなとても意義があるものでした。

また、エリアブランディングを学ぶ中で特に変化したのは、課題のつかまえ方です。これまではなるべく多くの住民の声から課題を探ろうとしていたのですが、自分の目でフラットに地域を観察して、気付きを分析するというスタイルを学ぶことができました。

安心して話せる空間だからこそ、
たくさんの成長がありました。

そのほかに事業を進めるうえで助けになったローカルベンチャーラボでの学びやサポートはありましたか?

3回の起業家講義も印象に残っています。高知県四万十市で地域商社を経営する畦地履正さんの、徹底して地元の人たちと商品を開発していく姿勢や、岡山県西粟倉村で多くのローカルベンチャーの担い手を育成してきた牧大介さんによる地域の魅力的な見せ方は、自身の事業を考える上でとても参考になりました。

ゼミのメンタリングでは、悩みに悩んだ事業プランに対して「悩みどころがだいぶ間違ってるよ」とズバッと言われて「何週間も考えてきたことが間違ってたんだ!」と大変ショックを受けたこともありますが(笑)、変な優しさではなく厳しい指摘をいただけたことが大変ありがたかったです。

ローカルベンチャーラボを通じて、自分自身はどのように変化したと感じていますか?

あるソリューションに飛びつくのでもなく、事業のことだけを考えるのでもなく、地域と向き合う姿勢が生まれました。フィールドワークを通じて地域のことをより深く知ることができましたし、愛着も増したように感じます。

ローカルベンチャーラボに参加する前は、ターゲットにヒアリングをして、構造的な背景を把握して、それに応じたソリューションを考えるといった、大学院で学んだ段取りが頭の中にあったんですが、それは完全に打ち砕かれました(笑)。ですが、地域の特性をつかむおもしろさに目覚めたので、改めてこれからもっと頑張りたいという意欲が生まれています。

それから、元々人前で話すことは苦手だったのですが、ローカルベンチャーラボでは半年間で何度もプレゼンする機会があったので、そのハードルも下がってきました。リスクがない空間だと思って挑戦できた結果ですね。そうしているうちに「この課題について話してほしい」といった依頼もくるようになり、緊張せずに人前で話せるようになってきたなと感じています。

プログラム最終日こそが本当の始まり。
これからもローカルベンチャーラボのネットワークをフル活用していきます。

事業の今後について考えていることをお聞かせください。

うちの施設の目の前にずっと何とかしたいと思っているボロボロの土地があるのですが、先日ついにそこの地主さんと交渉することが決まりました。ようやくローカルベンチャーラボで構想してきた事業プランのスタートラインに立てたという気持ちです。活用法としては、今ある老人ホームとは少し別のアプローチを考えています。

エリアをリサーチしてみて、周辺エリアには食料品店が少ないということがはっきりしました。そこで、1階にはソーシャルワーカーとつながることができる食料品・お惣菜店を作りたいと考えています。食べ物を扱うお店は、地域内外の人が日常生活の中で必然的に訪れる場所です。そんな場所に、必要としている人が適切な支援にたどり着けるような機能をプラスしたいんです。

それだけでは利回りが少ないので、4〜5階建ての物件にして、2階以上は集合住宅にすることを想定しています。それが介護施設になるのか、レジデンスになるのか、若者世代向けのコワーキングスペースを入れるのか、詳細は未定です。不動産屋としてテナントと利用者をつなげる役割を担うのかなど、自分たちの立ち位置もはっきりとは決まっていません。

僕自身はこのプランをやりたくてやりたくしょうがないのですが、メンターからは「まだ考えが甘いよ」という声ももらっています。アクセルとブレーキを両方踏みながら悶々としている状態ですが、今後もローカルベンチャーラボでつながったみなさんの力を借りながら進めていけたらと思っています。

鯉谷さんにとって、自信とスキルを育てられた半年間になりましたか?

正直まだ不安とモヤモヤだらけです(笑)。ただ、その不安やモヤモヤをぶつけられる相手が見つかったことが、ある意味自信とスキルなのかもしれません。

自分が何かすることで地域から様々な声が上がることは、正直少し怖くもあります。動きたいけど恐怖心がある中で、同期生から同様の悩みを聞いたり、先輩起業家であるメンターの方から「そこはあまり重要視しなくて大丈夫」と言ってもらえるだけで、とても安心したりします。

それから、人前で事業プランを発表したことで得られた意見やつながりも、大きな支えになりました。この半年間を終えて、プランを行動に移せていない自分にモヤモヤしているので、はじめの一歩をどこで踏み出すのか、誰とやるのかを見極めていきたいです。

ありがとうございました!

LVLに参加する方へメッセージ

ローカルベンチャーラボで得たものは3点あると感じています。1つ目は事業プランの進捗です。良い意味で色々追い込まれます(笑)。だからこそ、この半年で自分の事業プランの深堀りがかなり進みました。2つ目は仲間との出会いです。ラボが終わってからでも今でも月1でここで出会った仲間達と近況報告しあったり、実際にビジネスパートナーとして進められる方にも出会えたり、かけがえのない出会いをいただきました。3つ目はモチベーションです。この半年で自分の地域でより多くの人に出会い、より多くの事を知りました。より一層この地域のために何かしたいというモチベーションが出てきました。たった半年しかありませんが、とても充実した(しすぎた?)半年です。ぜひ皆さんもチャレンジしてみてください!