EVENT/REPORTLOCAL VENTURE LAB 22.04.28

「地域コーディネーターから起業家へ 〜地域で自分の事業をどう作る?」イベントレポート

ローカルベンチャーラボ修了生であり、岩手県釜石市で研修ツーリズムやローカルベンチャー育成事業を手がける株式会社パソナ東北創生の代表 戸塚 絵梨子(とつか・えりこ)さん、岐阜県で地域づくり・地域活性を行うNPO法人G-netの副代表 田中 勲(たなか・いさお)さんをゲストに迎え開催されたイベント「地域コーディネーターから起業家へ 〜地域で自分の事業をどう作る?」レポートをお届けします!

地域の中間支援団体のコーディネーターとして、地元企業とインターン生や副業人材のマッチング、人材育成支援に取り組まれていたお2人は、それぞれ2017年の第1期(戸塚さん)、2019年の第3期(田中さん)にラボに参加。修了後には、田中さんはご自身の事業で起業され、戸塚さんは「コーディネーター」というよりも「起業家」へ在り方が変わっていったのだそうです。

お2人はなぜラボに参加されたのか、どんなことを学び、現在の仕事にどのように繋がっているのか、座談会形式でお話を伺いました!

プロフィール


起業3年目、本気で稼がなければいけない状況に追い込まれて

本日はよろしくお願いいたします。まずは戸塚さんから、ローカルベンチャーラボに参加されたきっかけを教えていただけますか?

戸塚さん(以下、敬称略):今日はよろしくお願いいたします。東京都出身で、大学卒業後に人材会社のパソナに入社しまして、2年目の終わりに東日本大震災がありました。そこから震災ボランティアを始めたことがきっかけとなって、2012年に会社を休職して、釜石市の社団法人で働かせてもらいました。

その後、復職してパソナに戻り営業として2年ほど働いていたのですが、地域との関わりを趣味の領域ではなく本業に移していけないかとを考える中で、社内ベンチャー制度を活用させていただいて、2015年にパソナ東北創生を設立しました。人材のコーディネートなどを通して地域の企業の事業開発や経営革新などのサポートをさせていただいています。

さらに、自分自身が東京出身のよそ者で、釜石でいろんな学びを得て人生の価値観やキャリアを見つめ直すきっかけになった経験があり、都市と地域が交わることによって生き方・働き方に好影響を与えていくことを目的にしたツーリズムやワーケーションのプログラム化に取り組んでいます。

今年で8年目になる会社経営なのですが、経営の経験なんてまったくなかったので、とにかく頑張ろうと必死で取り組んできたのですが、少し冷静に自社の置かれた状況を見れるようになり、「稼がないと本気でやばい!」というタイミングでラボの1期生になりました。

「地域商社」のテーマラボ(※1〜3期までのカリキュラム)に参加して、「稼ぐとは何か」「どういうことを大切にしていかなければいけないのか」に向き合ったのが、この期間になります。現実と向き合って、試行錯誤という4文字の通りだいたい間違って失敗だらけで、起業した最初の4〜5年はずっとつらかったというのが正直なところです……。

ラボ卒業後も、2〜5期生と続いて釜石のメンバーたちがラボに参加していたので、釜石にフィールドワークしに来てくれる人たちがいたり、自分自身も修了生として様々な機会に参加させていただいて、刺激をいただいたり気づきをいただいたり、仲間っていいなとか思いながら試行錯誤で苦しい時期をラボと共に歩んできました。

ありがとうございます。それでは、参加されたのは新規事業をつくらなきゃいけないタイミングだったのでしょうか。

戸塚:事業をつくらないといけないというよりは、とにかく「稼がないと!」と思っていたので、そのためにはどうしたらいいんだろう‥?と悩んでいました。

起業したばかりで日々いっぱいいっぱいで、かつ出身ではない地域にいるというのもあって、起業してから2年間ぐらいはほとんど仕事以外の人と接点が持てなかったくらい、自分自身のためのインプットの時間がまったくなかったんですよ。

今だったら意識的に本を読むとか、関係ない何かを経験してみるとか試してみようと思えるんですけど、そんな余裕がまったくなくて。本を読む時間があったら、何か別のことをやるべきだろうと感じていたんです。

でも、それこそ自分がインプットしないでこのまま続けてしまっては、イノベーションは起きないと感じはじめたとき、ラボの募集を教えていただいて参加を決めました。仲間を得たり、他地域の事例を効率よく知れるんじゃないかとか、そんな気持ちだった気がします。

「挑戦」や「自己表現」を仕事に持ち込みたかった

ありがとうございます。それでは田中さんも、ローカルベンチャーラボに参加したきっかけを教えていただけますか?

田中さん(以下、敬称略):今日はよろしくお願いいたします。2012年にNPO法人G-net(ジーネット)に参画して、地域企業の経営革新を担う長期実践型インターンシップのコーディネートに従事しつつ、経営者の右腕人材に特化した採用支援事業の開発を任されていました。

うまくいかない時期もありながら、事業が一応は形になったなという2017年あたりで、「このままだと何かが足りない」と感じ始めて。組織は代替わりして私は副代表になり、やっていることにはもちろん興味があり、それでも足りないとはどういうことなのだろうと思っていたとき、「足りないのはローカルでベンチャーすることだ!」とハッとしたんです(笑)。“ベンチャー”って、開拓していくとか広げていくとか、そうした挑戦を意味する言葉ですが、そうした仕事を最近していないなと感じ始めていたんですね。

そもそも自分自身が社会起業することを目標に、創業者の秋元さんの元で学ぶためにG-netに入ったのに、任せていただいた新規事業が面白くなってきてしまって、さらに部下ができて、気がついたら自分の挑戦は後回しになっていたんです。

なるほど。それでは、具体的にやりたいことを決められてから参加されたのか、そうではなかったのか、どんな感じだったのでしょう?

田中:まだ決まってはいなくて、「自己表現を自分の仕事に持ち込みたい」といった感覚でした。

メンターの言葉がそれぞれの転換点に

お二人それぞれに伺いたいのですが、ラボで印象に残っている出来事や、当時感じていたことをお話いただけますか?

田中:プログラムの最初、メンターの山元圭太さんが課題解決思考と価値創造思考の話をしてくれて、「もしかしたら価値創造思考の時期が田中くんにきてるんじゃない?」と声をかけてくれたのですが、本当にその通りで。課題解決に逆算的アプローチで取り組んでいくのではなくて、価値を創造していくような挑戦を繰り返して目標地点に近づいていくことがしたかったんだと思います。

それから「みんなが集まることができる遊びの場所が欲しいな」と思うようになって、でも「イノベーション起こそうぜ!」と集まってもらうのではなく、もっと自然な形でそうしたことを起こせるんじゃないんだろうかと、お寺という場所に注目するようになりました。

お寺からしてみたら、勝手にそんな場所に使うなと思われる方もいらっしゃるとは思うんですが、一方で本来お寺は地元の人々が好きなときに集まってきた場所ですし、住職の方々は地域のいろんな情報を拾っていて、人々の繋ぎや問題解決のハブになっていた気がしていて。

お寺を管理する住職の方々からしても、地方であればあるほど今までのモデルで維持していくことが難しくなっているので、新しい取り組みを一緒に考えるキャリアスクールやビジネススクールのようなことができないかと考えました。

2020年には、株式会社人と土を立ち上げて、寺院との連携事業・寺院運営支援事業を含む人材サービス業を始めました。この事業には、ラボでの山元さんのあの声かけが繋がっていると思っています。

戸塚:私も、メンターだった畦地履正さんの言葉と、たまたま釜石にフィールドワークに訪れた山元さんの言葉にすごく影響を受けました。1期では、稼ぐには地域資源に光を当てて商品開発してそれを売っていくべきなのではないかと思い、そうした地域商社的な手段を選ぼうかと考えていました。

でも、いざ1期が終わって、本当に自分がそれをしたいのかよくわからなくなってしまったんですね。ラボを終えて1年後、畦地さんにお会いして相談させていただいたら、「商品を作る、何かを売るというのは“真ん中”ではない。大切なのは自分の“真ん中”だ」と言われて。自分としては「何かを売ろう」と表面的なことを考えていたので、そのときは大混乱しました。

その1ヶ月後ぐらいに山元さんが釜石にいらっしゃって、とても迷走していたので相談したら、「それは呪縛に取り憑かれているよ。稼がなくてもいいかもしれないし、コーディネートしなくてもいいかもしれないし、何かせねばならぬ思考に陥ってるんじゃないかな?」と言われたんです。それは、「稼ぐ」ことが必須だと思っていた私に、そもそも自分が何をしたいのか、どう生きたいのかに目を向けさせてくれた言葉でした。

そんな経験もあって、ラボが終わった後も1〜2年ぐらいかけて学びが深まっていったなと思っています。ラボで構想した事業を結局実現してないので、そうした意味では今に繋がる目に見えるものはないけれど、どんな事業をするにしろ根幹になるべきものはインプットできたと思いますし、自分を偽ってないかなとか、自分の“真ん中”がそこにはあります!って言える自分なのかなとか、いい意味でのプレッシャーはずっと持ち続けています。

また、地域商社のテーマラボは修了生同士の繋がりがあって、情報交換が活発だったりとグループが活性化してるんですよね。ZOOMで忘年会したり、畦地さんもご自身の最近の挑戦をシェアしてくださったり。起業家として先の先をいってる方がそうした姿を見せてくれることは、精神的な支えになっているなと。

あとはもう一つは、同期生同士がめちゃくちゃ仲良かったので、今でも繋がっていて、一緒に仕事したり、事業相談し合ったり、それぞれがさらに積み重ねていった経験値を切磋琢磨しながら伸ばしていくような関係を作れているのではないかなと思っています。

いびつでもいいから、芯から“自分の”事業をつくりたい人向けのプログラム

釜石市からは、戸塚さんを筆頭にその後全部で13人ほど参加していただいていますよね。

戸塚:そうなんですよ! 地域おこし協力隊や、地元の男の子が参加したりもしてるんですけど、もうめちゃくちゃフル活用させていただいていて(笑)。

いろんな地域の事例をインプットするのは頑張っても1人では難しいし、思い込みも1人では気付くことができない。勝手に頑張ってる気になってるけど、頑張りどころが全然違ったとか、本当にこのラボでいろいろ気づかせてもらったので、そういう活用をしてもらえるといいだろうなと思う人には手当たり次第声をかけて参加してもらっています。

それに、活動地域に同じような言語を体験した人が増えると、自分自身も楽しくなりますよね。

ローカルベンチャーラボはどんな方におすすめだと思うか、もう少し詳しく教えてもらえますか? 田中さんはどうでしょう。

田中:型に沿ってインプットして、確実なアウトプットに落とし込んできれいな事業構想を作る場所ではないと思っていて。場合によってはそれまで考えてた事業構想が全部なしになりましたみたいなことが起きる場所なんですよね。しかもそれをメンターやスタッフたちは歓迎してる(笑)。

仲間や地域から右脳的に感じるものを吸い込んで、いびつでもいいから自分の事業を練り上げていきたい人にはめっちゃいい場所なんじゃないかなって思います。

戸塚:おっしゃる通りで、逆に、側から見ていて参加するタイミングじゃなかったんじゃないかな?と思ったパターンについて2つ思い浮かんだので、お伝えしようかなと思います。一つは、すでにやることが見えていてあとは頑張るだけという場合。もう一つは、どうやって生きていこうか自分探しをしたい場合です。

前者にとっては、仲間を作る意味ではプラスに働くと思いますけど、事業をする上での根幹を問われ続ける半年なので、すでに自分の中でそうしたことがクリアな人は違う場所の方が適しているかもしれません。

後者にとっては、事業をやること、その地域で生きていくこと、自分の根幹について深く考えていくことになるので、考えるための具体的な基盤すらないと難しいのかなと感じました。この方向性でずっとやってきたけど、もう一段突き抜けるにはこのままじゃ駄目だとか、そういう感じの具体的なモヤモヤ感を抱えてる人がちょうどいいんじゃないかなと思います。

ありがとうございます。参加者の方から「事業構想するものの実行しきれないので、ヒントを得るために参加したい」とコメントいただいたのですが、お二方から何かコメントいただけますか?

田中:さっきの話と繋がりますが、何月に何をやってというタスクが整理されていくというよりも、事業構想の中に何を含めたいのかとか、要素の確認と見極めができる場所がラボなんじゃないかなと思います。

戸塚:ラボは良くも悪くも「あなた次第だよね」っていう雰囲気があると思うんですよね。月1程度で集まって、進捗をみんなで報告し合ってブラッシュアップしてもらったり質問を投げかけてもらったりするのですが、自分自身が動いてその場で出せるものがないとそのまま時間が過ぎていくんです。

誰かにやれとも言われないし、あれどうなった?みたいなことを問われるわけでもないので、本当に自分次第です。

最後に、「コーディネーターと起業家」というテーマでお二方がいま思い浮かぶことはありますか?

田中:起業は、コーディネーターという仕事に還元できることはすごく多いです。コーディネートする中で分かりきることができなかった経営者の思いや考えがあったのですが、自分が経営者側になる体験をして、コーディネーターとしての解像度が上がりました。

戸塚:今のお話を聞いて思うのは、起業家目線というか、自分主語で考えることを突きつけられた半年間は自分にとってはすごく良い時間だったなということです。

ラボに参加するまでずっと、何か違和感もありつつも「自分たちは釜石の地域コーディネーターなんだ」と思って事業を進めてきました。でも、地域コーディネーターとしての立ち位置が確固なものになっていくほど、違和感は降り積もっていって…。

畦地さんと山元さんの言葉から「自分の“真ん中”は何なんだろう?」と考えはじめて、やっと2年前ぐらいに「自分の生き方を作っていく人たちが増えたらいいな、そうしたことに取り組みたい、それが釜石でやれたらいい」と考えられるようになりました。それからめちゃくちゃ楽になれたし、地域の中での自己紹介もそのように変わっていっています。

出身地でもそうですが、移住するとやっぱり地域に対する尊敬や尊重のプロセスが大事で、その過程で地域の中でハブ的な存在としていろんな声が集まり頼られるようになっていくと思います。その結果、逆に地域の声に動きが引っ張られてしまったり、なかなか自分を出しにくくなるみたいなことが起こっていくのかもしれません。そこから改めて自分を取り戻し、事業を進めていくことで、新しい展開が見えてきたり広がっていくのかもしれないなと思いながら聞かせていただきました。
本日は、貴重なお話をありがとうございました!