INTERVIEWLOCAL VENTURE LABLVL OBOG 19.04.09

IT業界と地域の間に、「人」と「人」のつながりを生み出す。 自分の“使命”だと感じるテーマに出会いました。

  • 第2期生

ヴイエムウェア株式会社 DXビジネス開発室 室長/株式会社バーチャルクラフト 取締役副社長/一般社団法人はまのね プロデューサー 海・魚・船 担当/琉球大学工学部 非常勤講師

種子野 亮さん

鹿児島生まれ、熊本育ち。北海道大学水産学部漁業学科 卒業、46歳。 20年強の社会人生活はIT業界(都内)で過ごす。ベンチャー企業、国内大手通信事業者、外資系データセンター事業者、外資系ソフトウェアベンダーにおいて、エンジニア、マーケティング、コンサルティング、ソリューションビジネスに従事。多様な組織、職務の経験を活かしての事業・組織の新規立上げを得意とする。 2期では「安心豊かな暮らし創造」テーマラボにラボ生として参加していたが、2019年度開講の3期ではLocal Techテーマラボのファシリテーターとして参加することに。

社会人生活の残り20年間を
リ・デザインするための時間として

LVLに応募した当時のお仕事を教えてください

ヴイエムウェア株式会社というアメリカに本拠地を置くIT企業の日本法人に勤めていて、10年目になろうとしていたタイミングでした。ヴイエムウェア株式会社は主にソフトウェアを開発しているメーカーで、グローバルで3万人、日本法人では700人ほどが働いています。日本法人では日本のお客様向けにソフトウェア・サービスの販売・サポートをしていますが、技術職で入社してから最初の5年ほどは技術部門の管理職として過ごし、その後製品ビジネスのマネジメントを経験し、現在は新規の顧客開拓・ソリューション開発を担当しています。

どのようなきっかけでLVLと出会いましたか

IT業界は、普通の会社の4年が1年で過ぎていくと言われるくらい物事が進むスピードが速いんですね。そのスピードに合わせて仕事をしていかなければいけない上に、成果主義の外資系企業に勤めていて、このままでは20年先の65歳まで体力も気力も続かないだろうと感じるようになった時期がありました。「お金を稼ぐことだけが幸せなのか? それは違うのではないか」と、残りの人生設計を考え始めるようになったんです。 

大学では水産学部漁業学科を専攻していて、魚や海が実はITよりも大好きで(笑)、生まれも育ちも地方なので東京より地方が好きですし、そうした自分の原点に戻って地域で漁業を絡めた何かができないかと考えるようになりました。そうしてFBで「地域」「漁業」などのキーワードを入力して検索したところ、偶然見つけたのがLVLの説明会開催の情報でした。

LVLにどのようなことを期待して申し込みましたか

いくら学生時代に漁業を勉強していて地方で暮らしていたとは言え、社会人になってからはIT業界・外資企業の世界でしか生きてこなかったので、現在まで続いている地域・漁業のコネクションはありませんでした。ですから、まずは漁業や地方に関連するリレーションをつくっていかなくてはと感じていて、プログラムの内容自体よりもそうした点に期待をして参加を決めました。

とはいえ、リレーション自体にもさほど具体的なイメージは湧いておらず、残りの20年間の人生をデザインしよういう第一歩でしかなかったので、本当に手探りでしたよ。仕事はあるので焦る必要はなかったのですが、それでも何かを着実に進めていかないと何も始まらなと思っていて、参加費もそれなりですし半年間週末の時間を使うことにはハードルを感じましたが、とりあえずやってみようと決めました。

企業にも行政にも解決できない分野があること、
多様なテーマで頑張る人たちの存在を知り、
世界の見方が一変しました

どのような起業プランを考えていたのでしょうか

特に案を考えずにまっさらな状態で参加しました。テーマラボも、営利企業で働いてきた身として一番馴染みやすそうなお金の流れデザインに希望を出したのですが、ファシリテーターの蓜島一匡さんが水産商社ご出身ということで「安心豊かな暮らし創造テーマラボ」に事務局の勧めで参加することになりました。

LVLで印象的だったことを教えてください

リレーションを期待して参加を決めましたが、テーマラボのメンバーが多種多様過ぎて驚きましたね。ITと外資の狭い世界しか知らなかった自分にとって、福祉・健康・農業といったテーマの多様性についても、老若男女という意味においても、「世の中こんなに広かったんだ」とまずは衝撃を受けました。

それまではというと“資本主義の亡者”みたいな状態で(苦笑)、健康や福祉なんてお金で買えばいいじゃないか、お金があれば何でもできると本気で思っていて、お金もないのに夢や想いだけで行動している人たちが現実にいるということをすぐには飲み込むことができませんでした。それはもう文字通り「カルチャーショック」で、自分には知らない世界があって、この人たちと半年間一緒にやっていかなければいけないことが一番の衝撃でしたね。

転機になったのは7月末の宮城県石巻市・気仙沼市へのフィールドワークです。正直そんな状態でしたので、開校式や1回目のワークショップではまだまだ疑心暗鬼だったのですが、フィールドワークで現地で実際に多様なテーマで活動されている方たちと出会ったことで、はじめて企業がビジネスとして向き合うこともできず、行政も動けず、でも人々にとって大切なお金では解決できない領域が数多くあるのだと肌身で感じ納得することができました。何だって会社でやればいいじゃないかと感じていた自分にとって、例えば東京の会議室でいくら本人から話を聞いたとしても、おそらく理解できなかったことだと思います。

また一方で、理解が深まれば深まるほど、その多くの事業に対して持続可能性に疑問を持つようになりました。今熱意を持って動いている人がいても跡継ぎがいない場合が多々ありますし、個人の力に依存していてスケーラビリティに限界があることにも課題を感じるようになり、テクノロジーの力を利用することや企業を巻き込む必要性を感じるようになっていったんです。同時にテーマラボの中で段々と“みんなのデジタル担当”のような立ち位置になっていく中で、自分一人の力には限界があるし、これまでの自分のように地域で大事な活動をしている人のことすら知らずお金を稼いで生きていくことだけが幸せだと思っている人は世の中にいっぱいいて、逆に企業やテクノロジーの可能性を知らない地域の人たちもいて、この2つをつなげることで社会全体が良くなるのではと感じるようになっていきました。

「3期のLocal Techテーマラボのファシリテーターにならないか」という相談をETIC 理事の山内さんからいただいたのは、ちょうどそうした思いが募っていた2期終了間近のタイミングのことでした。個人的に会社の同僚を連れて石巻や気仙沼を案内する活動などはしていたのですが、僕個人の気づきや周囲の人たちの変化だけで終わらせるのはもったいないと感じていたので、自分に出来るのかという不安はありがなら二つ返事で引き受けました。

Local Techテーマラボでは、プランをつくるより前に人材開発的な視点で学びを進めていきたいと考えていて、地域における持続可能な経済・自治・人々の暮らしの実現をテクノロジーがどのように支えていけるのかをIT分野の人間と地域で活動している人間が一緒になって考えていければと思っています。知らない世界(IT)と世界(地域)が出会うことで、新しいアイディアが生まれたらいいなという期待もあります。この場は出会いの場でしかないですが、出会ってお互いを理解しないと何も始まりませんから、まずは両者の間に壁のない「人」と「人」のリアルなつながりを生み出すことを目指したいと思っています。

安心豊か暮らし創造テーマラボ2期生たち

メンターやファシリテーター、同期生たちとはどのような関係性でしたか

メンターで長野県参与の船木成記さんの存在は僕にとって強烈でした。本当に影響を受けましたね。博報堂でバリバリ働いてきたキャリアの人が、安心って何だろう、豊かって何だろうと本気で考えていて、話を聞けば聞くほど本当にそうだなと思わされるんです。営利の世界で生きていた人が、ビジネスの文脈も理解しながら非営利(社会)のことを考えていく大事さを語ったからこそ、あの納得感を得られたのだろうと思っています。もし船木さんが非営利しか経験されていなかったら、僕は信用していなかったかもしれないです。

「効率性を追求してお金だけ稼いでいればいいと思ってたんだろ?」「そうです、その通りです」といった冗談まじりの会話も船木さんとはしたことがありますよ(笑)。それくらい、参加当初は営利以外のことをまったく理解していなかった僕の意見を受けとめ続けてくれた船木さんの懐の深さに心底感服しています。

ファシリテーターで合同会社Amahoro代表社員の蓜島一匡さんは、現在一緒に活動している石巻・蛤浜の方とつないでくれた張本人であり、それ以外にも漁業や水産関連の方たちとのつながりを作ってくださったりと、今でも色んなバックアップをしてくださっています。現在蓜島さんは福祉などの分野に取り組まれていますが、将来的には一緒に漁業に関連した取り組みをしてみたいなと思っています。

また、今でも同期のメンバーにITやビジネスに関して困ったことがあればZOOMなどで相談を受けたりしていますし、事業のデジタル活用にずっと伴走しているメンバーもいます。安心豊かな暮らしテーマラボ全体としても、定例会を開き、学び合いのつながりがこれからも続いていく仕組みが生まれていますよ。一方で、それぞれが違うテーマに取り組む中で、どれだけ今後もこのつながりを継続できるのかは別の命題として模索している最中でもあります。

安心豊かな暮らしの前提には安心豊かな仲間が必要だと思っているので、これからもこのつながりは大事にしていきたいと感じていますね。

テクノロジーという切り口で
営利と非営利の人たちをエンゲージしていくことが
自分の“使命”だと感じています

最終的にどんなプランが残りましたか

現在、宮城県石巻市 蛤浜で活躍する亀山さんと一緒に、「浜(小さな漁村)」という地域の持続可能な暮らしについてコンセプトをデザインして一緒に取組みを開始しています。もちろん、このプランは大事なのですが、それよりもプランを磨くためというよりは働き方や生き方をデザインしにLVLに参加したつもりなので、ここで新しいつながりが生まれ自分の世界観が変わったことで第一の目的は達成したと言えると思っています。

蛤浜での風景

LVLに参加前と参加後で、どのような変化がありましたか

参加前までは、世の中お金や企業の力があれば解決できることばかりだと思っていたんですよね。自分だけがお金を稼げていればよくて、不都合な世界は見ようとしていなかったんです。でもLVLを通して知ってしまったから、今では自分だけがお金を稼げていれば良いとは思えないですし、企業も行政も担えない事業をどう実現させていくのかという難しさや、非営利が担っている事業こそお金と企業の力を必要としているというジレンマにも直面するようになりました。

一方で、これまで経済的利益だけを求めていた株式会社ですが、これからは社会的利益も組み合わせて追求していかないと投資家から見放される時代になっていきます。その時代の変化の中で、内側から企業を変えていったり、違う世界観の人たちをエンゲージしていくことが自分の仕事なのかもしれないと、少し大げさに言えば使命のようなものだと感じるようになりました。

でも本当に、新聞を見ていても悩ましいことばかりで(苦笑)。これまでは健康・福祉の記事欄は読み飛ばしていたのに、仲間が取り組んでいることだと思うと今ではしっかり目を通してしまいますし、以前のように単純にお金を軸に物事を考えられなくなってしまったので正直人生の悩みが深くなりました(笑)。ただ、違う世界観の人たちをエンゲージしていくことは生きがいになり始めていますね。問題は複雑で壁は大きいですが、一緒にやってくれる仲間がいるなら頑張れると思っていますし、来期でも自分自身がきっと新しい気づきが得られるだろうと予感しているので、それも楽しみにしています。

今挑戦している活動を教えてください

3期でのLocal Techテーマラボのファシリテーターとしての活動と、個人軸として2期でつながった石巻の蛤浜の方とテクノロジーを活用しながらも漁村という地域を価値化するためのデザインに取り組んでいます。「自分のふるさとが漁村だったら」「おじいちゃんが漁師だったら」という視点で、第2のふるさとを欲している人は都会に多いと思うんですよね。そうした方たちへ向けて、蛤浜に滞在して漁をして獲りたての魚を食べたりと、まるで故郷に帰ってきたかのような時間が過ごせる体験をサービス化できるんじゃないかと考えていて、月に1度は一人で、または地域に関心のある周囲の人たちをパイロットユーザーとして連れて蛤浜に滞在し、企画を進めています。

地域に飛び込んだ側からすると、地域を知りたい・理解したい都会の人間をどんどん地域に巻き込んでいかないといけないなと感じていますし、同時に地域側からも都会の人・色んな業界の人の巻き込みを含め地域のプロデューサー的な動きを期待されているように感じているので、これからそういった側面にも取り組んでいければと考えています。

LVLに参加する方へメッセージ

これまでの世界を否定するわけではないですが、今の自分ではない新しい考え方・気づきを得たい方にはとても向いている場所だと思います。LVLは多様なテーマ・取り組みをしている人たちが一堂に会する環境で、これだけ短期間に様々な世界を知ることができる環境は中々ないと思います。そして僕自身は、その“知ることができる”ということ自体が価値だと思っています。 例えばここで明確なプランや事業が生まれなくても、少なくとも新しい世界が自分の中に生まれます。知らない世界に入るときには躊躇しますが、そこは周囲のサポートもありますし、あまり恐れずにとりあえず一歩踏み出してもらえればと思っています。