EVENT/REPORTLOCAL VENTURE LAB 19.09.12

特別講義レポート:人口動態から解き明かす東京の未来から地域を考える 〜2020年以降東京で起こるやばいこと11選〜

東京の未来を人口動態から読み解くことで「地方の可能性」を探る特別講義を開催しました。

ゲストは、宮崎県日南市マーケティング専門官 田鹿倫基(たじかともき)さん。「マーケットとモチベーションがかみ合えば、新規事業の立ち上げは面白い」と語る田鹿さんから、地方というマーケットの可能性を学びます。

日南市は宮崎県南部に位置し、人口およそ5万人。飫肥城下町と飫肥杉の搬出を行う油津港を中心に栄え、日南海岸国定公園を有するなど歴史と自然に恵まれた土地です。2013年、九州最年少で市長に当選した崎田恭平さん(当時33歳)が公約のひとつに掲げた「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢される形で、田鹿さんは当時28歳で現職に就任しました。

崎田市長のもと、日南市は2019年現在までに油津商店街での取り組みをはじめ地方創生における多くの実績を生み出しています(日南市関連記事はこちらから)。現在もそんな日南市において人口動態のバランスが市にどう影響を与えるのか考察しマーケティングを行っている田鹿さん。「私たちの頭の中は、何となくのイメージでできているんですよ」と言いながら、いくつかのクイズを参加者に出していきます。

「まず、日本の殺人事件数は増えていると思いますか? これは実は戦後から減っているんですね。ニュースでは毎日のように悲惨な事件が報道されていますが、実際の数をみてみると戦後の多いときから3分の1以下になってます。また、オリンピックで観光客は本当に増えると思いますか? 過去の開催国のデータを調べてみると、スペインはオリンピックに関係なく増加、ギリシャと中国に至っては開催年に観光客数が減少しています」

何か動こうとする際には、頭のなかのイメージだけではなくデータを見ることが必要とされると語る田鹿さん。地方創生においてはやるだけで周囲から賞賛されることも多いけれど、実際に数字で結果がどう表れるか、本当に地域に事業が貢献しているのかは検証し続けなければいけないと続けます。

「2018年は昨年度と比べ日本全体で人口は43万人減、首都圏と沖縄県以外すべての地域で人口が減少しました。東京一極集中と言われますが、実際は65歳以上の人口が増えているだけで64歳以下は首都圏でも減っています。若者流入が今後起きたとしても焼け石に水状態で、今後加速的な少子高齢化が首都圏でも起こっていきますし、地方創生文脈では成功事例として挙げられる福岡市でも、生産年齢人口は減少し始めています。あの福岡市でもこれからは圧倒的な少子高齢化に対峙し続ける時代にはいります」

そうした状況の中で、地方創生は日本継続のための最後の切り札であり、若者を出生率の高い地方に住まわせることで出生数を増やしたいという意図が含まれたものであったが、それも現時点では失敗に終わっていると続ける田鹿さん。

「とはいえ、東京の若者はこのスパイラルに気づいた方から、はやく地方に逃げた方が良いんです」と、講義のメインテーマである<2020年以降東京で起きる12のやばいこと>紹介へと移っていきます。

以下、11個の概要を記事でもご紹介します。

1)東京では1日が22時間+通勤ラッシュのストレス平均往復2時間。ちなみに宮崎県は通勤時間の長さが全国で47位。もっとも通勤時間が短い地域。

2)自給率1%の都民にとって、災害により万が一物流がストップした場合、文字通り命とり。

3)育児環境の不整備について、現在もこれからも高齢化社会に向けた高齢者施設整備に力を入れており、人口動態を分析すれば今後も育児施設整備が満足に整わないことは明白。

4)大企業が多い首都圏では、誰か一人がいなくても他の誰かが補えるような仕組みになっている。一方で地域の零細企業では、一人がいないと回らないからこそ仕事へのやりがいが生まれやすい(経営業態が良いか悪いかは別の問題として)。

5)あなたが納めた税金は、年寄りか子どもか地方に使われる。つまり東京の若者のためにはほとんど使われない。

6)これからの若者は東京に来ない。そもそも地方に若者がいなくなっているので、東京がたとえどんなに魅力的な都市でも転入する人がいない。

7)東京はまだ元気な50〜60代が多く、上世代が様々な既得権益の順番待ちをしている。

8)東京はライバルが多い。地方にはプレーヤー自体が少ないので、すぐに参加でき注目され、何かを得ることができる。

9)東京の住宅費用があまりにも割高すぎる。六本木の坪単価880万に対し、日南市の坪単価は5万、なかには国道から外れると0円になるところも出てきている。一方で、地方では自身の努力によっては坪単価を上げられる可能性もある。例えば東京で土地を買う場合は「この土地の価格は将来どうなるだろう?」と考えるが、地方だと「この土地の価格はちょっと頑張れば上げられるな」という感覚が持てる。

10)一人あたりの年収は都会のほうが高いが、見落とされがちなのは地方は共働きがしやすいということ。とくに子育てが発生する時期は近くに親がいると共働きも容易。子どもが生まれるまでは東京が有利だが、子育てが始まると地方が有利になる。東京と地方で大きく変わる家計のコストは不動産と育児であり、それらが地方は圧倒的に安い。

11)東京では新しいことができない。マイナスをゼロにする仕事が多い。0→1は、地方の方が多い。新しいことをやるのであれば地方の方が余白が残されている。

また、平均年収について数字を見ていくと、東京は615万、宮崎は315万になります。しかしながら、地方では例えば自給自足、飲み会は持ち寄り、ベビーシッターは雇わずに近所のおばあちゃんが子どもを見てくれるなど、田舎に行けば行くほど貨幣経済に換算されない得られるものが多いと田鹿さんは語ります。

「東京の経済は貨幣に偏った構造になっています。しかし経済は貨幣以外にも、物々交換や自給、貸し借りなどが含まれます。価値の交換の連鎖が経済なのであって、お金の流れが経済ではありません。そう考えると地方には物々交換経済や自給経済、貸し借り経済など貨幣以外の経済が多く存在しているため、貨幣経済だけをみれば地方は小さいかも知れませんが、それはその他の経済が補完しているからですね。逆に東京は自給経済や物々交換経済は全国最低レベルだと思いますよ(笑)」

「では、これからどうやって生きていくのか?」という問いに対し、「東京から出られなくなっている人こそ都落ちしていると言えます。東京に住むのが一番簡単なんですよ。仕事はたくさんあるし生活も便利ですしね。その一方で台風や地震が来ても、スーツを来て必死に電車に乗るような生活を強いられる。力をつけた人から、住む場所に縛られずに複数の仕事に従事しながから収入を得る“百商”になっていけばいいんです」と答える田鹿さん。

「わざわざ大学にいかなくてもyoutubeで学べますし、複数の会社に所属してパラレルキャリアを歩むこともできる。今はSNSで居住地域に関係なくコミュニティに属することができるし、移動も安くなり多様性も出てきているので行き来が楽です。買いものもamazonなどのインターネット通販がある。これほどまでに環境が整っている現代においては、利益×事業数を担保することを意識していけば、地方で仕事や生活することは難しくありません。僕自身、10の仕事をすべて業務委託でまわしています。これからの働き方で言うと、テクノロジーを使いながら売上を追うのではなく利益を意識していく。それをネットワークやコミュニティをうまく活用しながら回していくことがポイントになると考えています」

さて、講義はここでいったん終了。以下、質疑応答のいくつかを共有します。

Q:どのように事業を始め、手伝ってくれる人を見つけ業務委託で雇い、自身の手をかけなくていいよう設計して回しているのですか?

田鹿さん(以下、田鹿):共通しているのは、どの事業もやりたいと思って始めたことではないということです。始めるのはタイミングが大事。自分が決意してやるのはかっこいいですが、その時が最適な条件が揃ったかどうかは分からない。それよりも「やりたい」ことを常に10個くらい持っておいて、タイミングが合致したときにやっていけば、失敗する確率が減りそうと思っています。

Q:ある地域に関わらせてもらっていますが、人口増加は今後難しいのではとその地域でも話しています。先ほど人口動態を整えるということが大事だと語っていましたが、基礎自治体レベルでは人口政策をどう考えていけばいいのでしょうか。

田鹿:人口動態の形を四角形に整えることで持続可能性を高めることが可能です。人口の絶対数が本質ではなく、大切なのは人口動態の形です。あらゆる地方の問題は、廃校問題、社会保障費の問題いろいろありますが、全て人口ピラミッドが崩れることにより起きています。日々生まれる数、亡くなる数が同じになると、まったく派手さはありませんがほぼすべての地方課題が解決されていきます。

派手なことをやらなくても、地道な施策が大事です。例えば自治体の中できれいな人口ピラミッドなのは長野県の南箕輪村や同じく長野県の下條村ですね。国でみるとニュージーランドですね。各年齢の人口がほぼ同じになっていて凹凸がありません。持続可能性が極めて高い人口構成になっているわけです。そのためにやることは二つで、若者が希望する仕事をつくること、子育てをしたい人の環境を整えていくことです。

Q:形を整えるための四角の縦線はどこに合わせると良いというのはあるのでしょうか。

田鹿:いったん考えなくても大丈夫です。その地域に何人住むのが適正かは、社会環境によっても変わってきます。キャパシティの概念があるということを意識しつつも、20〜30代の居住につながる施策に取り組めばいいと思います。

Q:企業のマーケティングを経験してから地域に入られたとのことですが、企業で事業をつくるときと地域で事業をつくるときの違いや、地域でやるときの重要なポイントやぶつかった壁があれば教えてください。

田鹿:大企業のほとんどの仕事は既存のマーケットに対するアプローチです。自動車メーカーやビールメーカーが既存の市場シェアを増やそう、というものです。一方でベンチャー企業は、投資家に今後こんなサービスが必要になるから始めましょうと話を持ちかける形で進めます。今僕が地域で取り組んでいる事業は、やる人がいないからやってほしいという声を断り切れずにやっているものが全てです。そうしてゲストハウスの運営をしながらツアーもやってと、段々とシナジーが生まれてくる。大きく自分が経験してきたことはこれらの3つです。

Q:数字は使い方によっては踊らされたり臆病になったりすると思いますが、田鹿さんはどのように付き合われているのでしょうか。

田鹿:日々生活していく中での違和感から仮説を立てることを大事にしています。飲み会でAさんが言っていることとBさんが言っていることが違うのはなぜなのか、とかですね。

例えば油津商店街へのIT企業の誘致は、日南の若い人と飲んでると「日南には仕事がない」と言うのに、日南の社長さんと飲んでいると「人がきてくれない」と言う。そこで原因をデータから探ろうと、給与、男女差など見ていくと、事務職不足だということが見えてきた。IT企業であれば事務職に特化したサテライトオフィスが宮崎にあってもいいのではと考え、あと2~3年で上場を見込んでいる企業――知名度不足で採用が難航していて、1人につき100万円くらいかけて育成しても大手企業に転職されてしまうということが起きている企業――に、企業側にとっても採用ができずに上場が先延ばしになることは避けたいだろうと、そうしたリスクが少ない日南にサテライトオフィスを作ってしまうのはどうかという提案をしたところマッチングしました。

このように、あくまでも目の前に見えている肌感覚が大切で、それを確かめにいく意識で数字を使っています。

それぞれがすでに地方との関わりを持ち始めているLVL生たちからのリアルな質問が続いた質疑応答タイムも、たっぷりと時間をとって無事に終了。都会や会社に依存しなくても生きていけるインフラが整っている今、東京の未来をデータから紐解けばこれほどまでに地方の可能性は溢れているのだということを学べた特別講義となりました!