EVENT/REPORTLOCAL VENTURE LABNEWS 19.03.29

ローカルベンチャーラボ特別講義:「エリアブランディング視点で、これからのまちづくりを考える会」イベントレポート

まちづくり、都市計画、エリアマネジメント、リノベーション……etc. いずれも地域の価値を高め、その地域の人の暮らしを豊かにすることを目指しているはずです。しかし、個別の方法論だけが目立ったり、金融的な視点で収益性ばかりを求めたりと、かならずしも地域の価値向上にはつながっていない場合もあるようです。では、本来のエリアブランディングが目指すカタチとはどのようなものでしょうか。

そんな「エリアブランディング」について、具体的な事例をもとに参加者のみなさんと一緒に考えていくイベントが、2019年3月25日に丸の内KITTE内のマルノウチリーディングスタイルで開催されました。

ゲストは豪華お2人。WIRED CAFE創業者にして、数々の先進的なプロジェクトのエリアプロデュースを手がけてこられた大御所・入川ひでとさん(入川スタイル&ホールディングス代表、W’s Company会長)。そして、千葉県松戸市のMAD Cityをはじめとする、アーティストやクリエイターなど尖った人の力を活かしたまちづくりに定評がある寺井元一さん(まちづクリエイティブ代表)です。

2010年のプロジェクト開始以来、200人以上のクリエイティブ層を誘致してきたMAD City構想

まず寺井さんから、まちづくりの考え方やメソッドを事例をもとにお話いただきます。

渋谷の街を拠点としたNPO法人KOMPOSITIONの創立者として20代を過ごしていた寺井さんは、ある時期、都会におけるしがらみの多さにぶつかり地方に活動拠点を移すことに可能性を感じるようになります。

「自分が何かをやりたいなと思ったときに“応援してくれる自治区”が欲しい。自治区と呼ばれる場所は海外には意外に多く存在するのですが、日本には少ない。では自分がそれを作ろうと思ったんですね」

まちづクリエイティブ代表・寺井元一さん

そう決めた寺井さんが次に始めた活動が、松戸駅を含めた松戸市の一角、半径500メートルの範囲を「MAD City」と呼び、“一風変わった”不動産事業を核として新しいまちをつくるプロジェクトでした。なんの縁もなかった松戸で、最初にやったことは地元のお祭りを手伝うこと。そこから段々と地域に根づき、自分たちの事務所を作り、株式会社まちづクリエイティブが生まれました。

「MAD City」では、2010年のプロジェクト開始以来、これまでに200人以上のクリエイティブ層を誘致してきました。

「まちづくりにおける僕のテーマは、いかに尖った人たちを集めるか、そしてその場所で自由に活動できるようにするかです」

寺井さんの発想の原点は、海外のスクワット(居住者不在の家屋に不法占拠して住むこと)。イギリスなどの欧米諸国では、スクワットによるアーティストなどの活動によって個性的で魅力的な場がつくられると、それを行政が追認する形で合法化され観光地化するといった事例が数多くあります。「MAD City」では、数々の空き物件をリノベーション可能物件として、格安で、与信なし(!)で、ポートフォリオを審査対象とすることで多くのアーティストの誘致を成功させてきました。

「アーティストの方たちなので、与信をしてしまうと審査落ちする可能性が高い方たちなんですね。それに、僕らは何をしてきたのかこれまでの活動遍歴が知りたいんです。例えばポートフォリオで、申込者がある大手インテリア企業でのデザイン経験があることを知ったとします。すると、その相手に住んでもらえば絶対に良い部屋になることが分かるわけです。そうしてリノベしてもらうと、次に貸しに出すときにはその部屋の価値が上がり、賃貸料が上がる仕組みになるわけですね」

そんな「MAD City」のビジョンは、

・クリエイティブな自治区をつくろう。
・刺激的でいかした隣人をもとう。
・地元をリスペクトし、コラボを楽しもう。
・変化を生み出そう。新しいルールを発明しよう。
・仕事場も住居も、DIY精神で自由に創造しよう。
・河辺でも通りでも駅前でも、街を遊びつくそう。
・東京のみならず、世界とどんどんつながろう。

というもの。このビジョン通り、「MAD City」ではプロジェクト開始以来関係するアーティストにより様々なイベントがまちのあちこちで開催されています。

さらに、「この狭いエリア内に、ほぼすべての職種を揃えるように誘致のバランスを考えています。僕らが作りたいのは自治区ですから」と、大きな円が何重かに描かれた絵をスライドで見せながら続ける寺井さん。

「まちに人が集まるプロセスには順番があります。いきなり色んな人が来るわけではなく、最初に来るのはエンジンが自分の中にあるタイプの人。起業家やアーティストなどが最初に来ることで、その周辺に人が集まりだします。次に関連職としてデザイナーなどのクリエイター層、そしてそのエリアが活性化されてくると店舗起業層が、最後にビジネス的な魅力を感じた金融・知識産業層が集まってきます。そうして地価が上昇し、自由に活動できる余白が少なくなると、最初にまちに集ってきたアーティストたちはまちを出ていきます。外周が経済的な強さのある人、内側が経済力が弱い人ということですね。現在NY のマンハッタン、ソーホーやロンドンで起きてるのはこういうことです」

この仕組みを基盤に、「まちにどんな人がどの時期に集まるのかが一番大事であり、この小さな循環を繰り返すことでまちを成長させていくことができる」と語る寺井さん。

かつては水戸と江戸をつなぐ街道の宿場町として栄えた歴史を持つ松戸宿であり、成田空港と東京をつなぐ現代の宿場町が「MAD City」なのだと語ってくれました。

エリアブランディングの核心は、住人たちの生活、思いを吸い上げることにある

後半では、入川さんとのクロストークによりエリアブランディングの視点がさらに広く高く、狭く深く展開されていきます。

入川さんは、人通りもまばらだった1999年の裏原キャットストリートにWIRED CAFEを生み出した張本人。その代表的な仕事としては、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIの店舗プロデュースなどが挙げられます。

「エリアブランディングで一番大事なことは、先ほど寺井さんが述べられた円の中心と周辺の人々の循環の視点で語るとすると、このまちが今どんなレイヤーになっているのか、街がどこへ向かっているのかを把握するということ」

そう語る入川さんは、「河川敷や、公園の日の当たらない片隅で生きる人たちに仕事を作り社会復帰を促しながら面白いことを一緒にやっていく、そうするとまちがダイナミックに変わっていく。駅前をピカピカにするだけでなく、自分たちの足元をつないでいくことが大切」だと語ります。

入川スタイル&ホールディングス代表 W’s Company会長・入川ひでとさん

入川さんと寺井さん、このお2人の付き合いはなんとお互いが渋谷で活動をしていた時代からなのだそう。その当時、渋谷で落書きされた壁をきれいにしてアーティストのキャンバスにする活動をされていたという寺井さん、一方の入川さんは地域の川を掃除した人に地域通貨を発行し、その地域通貨を使って入川さんの経営されていたWIRED CAFE 360°で食事ができるという仕組みを作っていました。当時の寺井さんは地域の人たちと一緒にクタクタになるまで活動して、最後は入川さんが経営されていたお店でお酒を飲むなんて日々を送っていたのだそうです。

そんなお2人だったからか、「自分が限りなく惹かれるのはいわゆる闇市のエネルギー。作り込んだものに面白さを感じられない。でも闇ではダメなので、そこは表にしていきますが……」とこぼした寺井さんに、「なぜそうしたある種の“汚いもの”に惹かれるの?(笑)」と入川さんが楽しそうに掘り下げていく場面も。

「何と言いますか、まちだって生きているんですから、常に変わり続けて欲しいんです。いかにそのダイナミズムを維持していくかですね。開発していくとどんどん問題が生まれますが、そこをどう面白くしていけるのか、連続的な成長を作れるか。まちがきれいになるだけが、街の色気じゃないですよね」

そうした寺井さんの発言を受けて、「住んでいない、働いていない、ましてや暮らしてもない、それくらいに客観的に外から見ないと、絶対にわからないことがまちにはあります。誰にとっても“地元”が一番見えているようで、見えないもの」と語る入川さん。

「以前エリアブランディングのために訪ねた島根県の浜田市では、まちの人に話を聞いても自分たちの地域にはいいところなんて全くないと言うんですよ。けれど外部から来た人間から見たら、全国でも13港しか存在しない重要な漁港があったり、ジビエが豊富だったり、鮮やかなくらいのリソースが見えてくる。それでもやっぱり、暮らしている人にとってはそれが“普通”。そこでフィールドワークでは、まちの人たちにそのリソースについて他の地域と比べどれほどすごいのかを語ると、どんどん情報が入ってくるようになります」

そこに寺井さんは、「加えて僕はそのまちの揺るがないもの、価値も探します。そのために、そのまちの“夢を語った人”にまず会いにいきますね。例えば現在仕事で関わっている佐賀県武雄市では初めて温泉をつくった人に、松戸では松戸市長を歴任したマツモトキヨシ創業者の松本清さんの考えたことを深く掘り下げていきました」と続けました。

そうしたまちを知るフィールドワークがエリアブランディングの最初の下敷きであり、エリアブランディングとは、そのエリアに住んでいる人たちの生活、思いを吸い上げたかたちで必要な機能をまちにつくることなのだ--リノベーションやゲストハウス、カフェはあくまで手段でしかないと、入川さんはまとめました。

新しいことをやりたいならば、まずは土地の記憶・歴史に潜っていく

最後は、質疑応答タイムです。

参加者:まちの歴史を調べるときに、どのような観点で資料を見ているのでしょうか?

寺井さん:過去にそのまちで誰かがやろうとしていて、そのまちの皆がやりたいと思ったけどやれなかった瞬間を探しています。そうしてそれを引き継いで、そのまちの後継者になりすますつもりで調べていますよ。おそらく文化人類学者のスタイルに近く、特に“変なことを言っている人”に話を聞きにいきます。100人いたら80人は同じようなことを言うものですが、他とは違うことを言っている人からヒントを得ます。

また、このまちは、いまから自分のまちになる、と思い込むことが大事です。きれいごとでやっても、正直つらすぎる状況が起きるのがまちづくり。自分には何もできないと思っていても何も変わらないですし、意外とやり切ると周囲にも喜んでいただけるものです。結果がすべてであって、そのためには努力が必要。自分のまちだと思い込んでやってしまうことをお勧めします。

 

参加者:まちを平らに見るのではないというお話がありましたが、もう少し詳しく教えてください。

入川さん:地図を上から平面で捉えてまちを語るのではなく、まちに降り立って人の目線でまちをどう見るのか、ということ。鳥の目・虫の目とも言えますが、机上で考えて書くだけのプランではダメなのです。フィールドワークでそのまちを見ること。例えば、スーパーの品揃えを見るだけで、そのエリアにくらす人の家族構成やライフスタイルなどがわかります。

今回のイベントで語られたようなエリアブランディングを学ぶ場が、2019年も開講します。

単なるリノベーションや不動産活用という手段の話ではなく、そのエリアにくらす人の目線からまちに必要な要素を見立て、まちの歴史や文化的な背景を紐解きながら、より魅力的な地域の未来を描く。そんなエリアブランディングというテーマを、入川さんと寺井さん、そして同期生のメンバーと共に考えてみませんか。

詳細は、以下のリンクをご覧ください。

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