新たな社会デザインの実証実験 〜雲南ソーシャルチャレンジバレー構想〜

PROJECT

自治体と、企業がつくる
持続可能なまちづくりに向かって。

「小規模多機能自治」で全国に知られる島根県雲南市。地域を学びの場とした「雲南コミュニティキャンパス(UCC.)」を中心とした子どもチャレンジ、課題解決型の事業を支援する「幸雲南塾」を軸とした若者チャレンジ、そして、地域自主組織による地域課題解決型の住民自治を目指す大人チャレンジの3つのチャレンジを推進している。そこへ新たに企業のチャレンジが加わり、「雲南ソーシャルチャレンジバレー構想」として、チャレンジの連鎖で持続可能なまちづくりを目指しています。このプロジェクトに、大手総合建設会社である竹中工務店はじめ、ヤマハ発動機等複数の企業が参加を表明。2019年春から本格的な活動を予定しています。なぜ参加することを決めたのか。どのようなゴールを目指しているのか。竹中工務店の担当者であるまちづくり戦略室 副部長の岡 晴信さんに聞きました。

MEMBER
株式会社竹中工務店
1899年創立した大手総合建設会社。2014年に発表した「2025年の成長戦略」の中で“サステナブルな社会の実現”を目指すことを宣言。2017年には「まちづくり総合エンジニアリング企業」を表明し、まちの基盤、経済・文化、生活、未来をデザインしていく活動を続けている。本プロジェクトは、竹中工務店のまちづくり事業推進の核となる「まちづくり戦略室」が担当している。
島根県雲南市
人口4万人弱。高齢化率36.5%と、高齢化社会が進んでいる中で「子ども×若者×大人 チャレンジの連鎖による持続可能なまちづくり」を提唱。「幸雲南塾」を通して、コミュニティナースが全国に展開する他、すでに新規雇用や3億円を超える経済波及効果を実現。第4回プラチナ大賞“総務大臣賞”受賞をはじめ、様々な分野から注目が集まっている。今後は企業との連携による事業創出、実証実験を通して社会課題の解決にのぞむ。

INTERVIEW

プロジェクト参加を検討されたのには、どのような背景があったのでしょうか

当社は2014年に、サステナブルなまちを実現するために様々な事業領域に踏み出していくというグループ成長戦略をたてました。その背景のひとつには、日本の人口減少があげられます。住む人が減るのに、建物だけではビジネスが成り立ちません。今後、トレンドとして右肩下がりは間違いない。この環境下で、いかに今の事業を維持・拡大していくか。そのためには、これまでとは異なった切り口が必要でした。それが「まちづくり」というコンセプトです。

それは、たとえば国産木材の利用拡大を通して産地の地域社会を支え、森林の再生に寄与すること。歴史的建造物に新しい役割を与え、価値を再発見していくこと。いるだけ健康につながる建築を実現すること。そういった従来の土木・建築以外の活動からサステナブルなまちづくりを目指しています。また、まちづくりに関する勉強会を通じてローカルベンチャーラボ(以下、LVL)の方と知り合う機会があり、複数の地域や事例をご紹介いただき、一緒に現地を訪問し、実証実験の検討を進めました。その中のひとつとして雲南市の協働プロジェクトに興味を抱いたのが本プロジェクトに参加する最初のきっかけでした。

雲南市のプロジェクト参画の決め手はどこにあったのでしょうか

最終的な決め手になったのは、少子高齢化のモデル自治体であることと、私たちが推進している「健築®」のテーマと合致する“コミュニティナース”の存在でした。雲南市の取り組みと、竹中工務店が向かう方向性に親和性を感じたのが大きかったですね。

ただ、同じぐらい決定を後押ししたのはアクティブなキーマンの存在です。自治体のトップである速水市長の決断力、政策企画部の佐藤部長の情熱、現場で頑張る若者たち、そしてLVLを介してサポートする方々が掛け合わさっていた。すべてのピースがそろっていると感じました。さらにキーマン同士がちゃんとネットワークでつながっており、上手に機能している点は他にはないユニークな点です。

どのような成果を期待していますか

雲南市を訪れたとき、地域自主組織で活動している方のお話を伺い、コミュニティナースの研修に一泊二日で立ち合いました。その間、ずっと「竹中工務店で何ができるか?」と考えていたのですが、そのひとつの答えが「健築®」という切り口でした。人間は生涯のうち、9割を建物の中で過ごしていると言われます。つまり、間接的に建築が健康に大きく影響を及ぼしている。また、全国平均よりも高齢化社会が進んだ雲南市にとっても、健康はまちづくりとは切り離せない問題でした。

当社はこれまでに、千葉大学予防医学センターとも共同研究を行い、建築と健康の関係性を研究してきました。その蓄積を経て、今回の雲南市でのチャレンジとなります。具体的には、街の中での健康を追求していくため、コミュニティごとにデータを集めませんかという提案から始めています。将来的には、収集したデータを「健康のためのまちづくり」に活かしたり、新しい事業のベースになればと考えています。

もうひとつは、雲南市や周辺で活動されている方に、私たちの企業ネットワークを活用していただき、全国にスケールアップしてもらうことができないかとも考えています。この辺りも模索段階ではありますが、面白いことを行動に移していけば注目が集まりますし、それによってイキイキと働く方が増えてくれたら嬉しいですね。その中で「雲南市の成功には竹中工務店が関わっている」という印象が出てくるようになると、企業としても新しい可能性が広がっていくのではないでしょうか。

THOUGHT

LOCAL R&D CENTER への想い

プロジェクトに対する岡さん個人の思いを教えてください

私個人が、働く上で軸にしているのは「世のため人のために」です。少し大げさな言い方かもしれませんが……おそらく、就職活動の時期に父に渡された数冊の本の影響が大きいのだと思います。経済関連、財界人に関する著作が多い伊藤肇氏、哲学者であり思想家である安岡正篤氏、さらに昭和や明治から日本を立ち上げた偉人の本を読んでいると、産業を興すことで世の中に貢献している姿や、金儲けが第一ではないという考えに惹きつけられたことを覚えています。

実際の経済活動では、世のため人のためという自分の思いと会社のミッションというのは、なかなかひとつになりづらいものです。でも、この「まちづくり」という仕事はかなり一直線に近い。その上で利益を生み出せればもっと素晴らしいけれど、まだそこは今後の課題ですね。

ちなみに、このプロジェクトで関わるまで雲南市には行ったことがありませんでしたが、思い描いていた地方像とはずいぶんギャップがありました。疲弊感がないし、高齢者の方もみんな元気で。70歳を超えた方がパワーポイントでプレゼンテーションをするのには驚きました。きっと、こういう知られざる魅力的な地域というのはたくさんあるのでしょう。これからの活動で、そういった地域をちゃんと見つけて一緒に磨いていきたいと思っています。

 

プロジェクトに対する将来への展望を教えてください

このプロジェクトの本格稼働は2019年春以降。成果が出るのは先の話です。ただ、すでに地方都市が持つポテンシャルは十分に感じています。ひとつは先進的な施策のトライアル先として。今回私たちは「健築®」をテーマにした活動に取り組んでいきますが、それ以外にも様々な挑戦を行える余白を感じました。たとえば自動運転のクルマを走らせようとすると、都市部ではほとんどスペースがありませんが、地方なら何十キロも走らせることができます。そこで雇用を生み出しつつ、後の成果を都心にフィードバックする。そういった動きは、エネルギーや木材資源、農作物、観光など、今後様々な分野で生まれてくるでしょう。

近い将来、都市と地方は関係し合い、ぐるぐるとお金とモノが循環していくはずです。そこに向けた仕組みづくりも私たちの役割。ただ、これは弊社1社だけでつくれるとは思っていません。行政や地元ベンチャーはもちろん、東京の企業などとも連携してネットワークを広げていく必要があります。そして誰でも出入りできるようなオープンなフィールドをつくることで、様々なステークホルダーが複合的に雲南市に関わり、最終的にまちの社会課題の解決につながった成功事例にしていけたらいいと考えています。

LVLに期待することはどのようなことでしょうか

LVLを介すことで、自治体と企業に新しい接点・繋がりができることがメリットだと考えています。これまでの自治体と企業は、工場などの生産施設や事務所を誘致する、される。または自治体の発注業務や工事の発注者(委託者)と受注者(受託)の関係でした。

しかし今後は、自治体と企業がパートナーとして社会課題を解決する新しい取組みが必要であり、その取組みにはLVLと組むことが有益であると考えています。

竹中工務店が雲南市と一緒になってプロジェクトを進めていく中で、LVLには“通訳者”としての役割を担っていただけるのではないかと期待しています。雲南市は自治体です。当然、公のファクターで動く。逆に私たち企業は、民間のロジックで動きます。使う言葉も感覚も、やはり公と私では隔たりがあります。そこにLVLが介在していただき、うまくコーディネートしていただきたいし、それだけの知見があると思っています。

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